エラスチン線維の再生

Elastic Fiber Regeneration
弾性線維は大動脈壁を構成する主要な構造要素の一つであり、血圧や脈などによる生体力学的ストレスに耐える重要な役割を担っています。弾性線維の半減期は非常に長く、約70年にも及ぶとされ、成熟した大動脈では、一度形成された弾性線維は再生できないと考えられてきました。 しかし、私たちの研究により、いくつかの大動脈疾患では、成熟した大動脈であっても、弾性線維が新たに合成されることが明らかになりました。上の画像は、大動脈解離を発症したマウスの大動脈写真で、正常な大動脈内腔(真腔, True Lumen)に隣接して、血液が流入する病的な血管腔(偽腔, False Lumen)が形成されています。私たちは、この偽腔の血管壁に新たに形成された弾性線維(de novo fiber)を発見しました。この発見は、損傷を受けた大動脈には、弾性線維を再生する能力が備わっていることを示しています。

外膜前駆細胞

Adventitial Stem Cells
弾性線維の再生を担う細胞メカニズムとして、外膜前駆細胞の関与を明らかにしました。細胞の祖先を調べる解析(Acta2-CreERT2 mTmGを用いた系譜追跡解析)を用いて、偽腔壁を構成する細胞を調べてみると、血管壁の主要構成細胞である平滑筋細胞には由来せず(左図, 偽腔壁のほとんどが赤色)、大動脈外膜に存在するGli1陽性前駆細胞に由来する(右図, 偽腔壁全体に緑色を認める)ことが明らかになりました。つまり、大動脈解離後の弾性線維の再生には、外膜に存在する前駆細胞が重要な役割を果たしていることが分かりました。

再生医療に向けて

Regenerative Therapies
細胞実験より、外膜前駆細胞(赤色)には、弾性線維(緑色)を産生する能力を持つことが明らかになりました。弾性線維は大動脈の構造と機能を維持するために不可欠であることから、私たちは、新たに形成される弾性線維が大動脈疾患に対する生体防御機構として機能していると考えています。 これまでの研究成果をもとに、現在私たちは、新たに産生される弾性線維を大動脈疾患の治療標的として活用できるかどうかを研究しています。特に、この再生プロセスを促進することで、大動脈の修復を促し、患者さんの予後を改善できる可能性があるかを明らかにすることを目指しています。細胞生物学、分子生物学、系譜追跡解析、マルチオミクス解析を組み合わせることで、血管再生を支える細胞・分子メカニズムの解明に取り組んでいます